
ここ数年、通勤や通学、子育て世代の移動手段として急速に普及している電動アシスト自転車。しかしその一方で、違法改造によって性能を不正に強化した「モンスター電動自転車」の存在が社会問題化している。
■違法改造の実態と手段
電動アシスト自転車は「時速24キロまでアシストが働き、それ以上は補助が切れる」という国の基準に基づいて設計されている。しかし、近年はこの制限を解除し、30キロ、40キロ以上の速度でアシストが続くように改造するケースが後を絶たない。
主な改造手段には以下のようなものがある:
- 「スピードリミッター」解除キットの装着
ネット通販で数千円から販売されており、誰でも簡単に取り付け可能。ペダル回転数にかかわらずアシストを持続させることができる。 - 制御ユニット(コントローラー)の書き換え
専用アプリやPCツールを使用して制御ソフトを改変し、出力制限を解除する方法。技術的な知識が必要だが、YouTubeなどで手順を解説する動画も多い。 - パワーの高いバッテリーやモーターへの交換
法規を無視して大型バッテリーやモーターを取り付けることで、アシスト出力を強化するケースもある。
■事故時のリスクと法的責任
違法改造された電動自転車が起こす事故のリスクは計り知れない。高速走行中に制動距離が間に合わず歩行者をはねたり、交差点での急加速による接触事故などが報告されている。
さらに、違法改造車両に乗って事故を起こした場合、以下のような重い責任を問われる可能性がある:
- 重過失致傷・致死の可能性
法定速度を超える走行によって被害を与えた場合、故意または重過失として刑事罰の対象となる可能性がある。 - 保険が適用されないリスク
違法改造車両による事故は、通常の自転車保険や損害賠償保険が「免責対象」とされる場合が多く、数百万円〜数千万円の賠償を自腹で負うケースもある。 - 車両としての扱い変更
モーターの出力やアシスト機能の条件が基準を超えた場合、それは「原動機付自転車」扱いとなり、ナンバープレート・ヘルメット着用・自賠責保険加入が義務化される。無登録で公道を走行すると、道路交通法違反・無免許運転として摘発される可能性がある。
■取り締まりと社会の課題
警視庁や各地の警察は2023年以降、改造された電動自転車の摘発を強化しており、実際に逮捕者も出ている。また、2024年には国土交通省と経済産業省が連携し、違法パーツの販売業者への指導も始まった。
しかし、個人間売買や海外通販などで流通は後を絶たず、特に未成年による改造・使用も増えているのが現状だ。
■利用者一人ひとりの意識がカギ
電動アシスト自転車は本来、交通弱者の移動を助け、持続可能な交通手段として非常に有益な存在だ。だからこそ、その便利さに依存しすぎたり、スリルを求めて違法な速度強化を行うことは、社会全体の信頼を損なう行為である。
今後は、規制強化だけでなく、「ルールを守って安全に使う」ことへの啓発活動が重要になるだろう。
違法改造は「ただのカスタム」ではなく、立派な犯罪である――。その認識を社会全体で共有することが、事故と悲劇を未然に防ぐ鍵となる。
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