
相互関税(reciprocal tariffs)とは、ある国が他国に課している関税に対して、同等または同様の関税を報復的に課す措置を指します。これには「報復関税」や「報復措置関税」といった形が含まれ、国家間の貿易摩擦がエスカレートする引き金となることがあります。
【1】相互関税・報復関税の定義とメカニズム
● 相互関税(Reciprocal Tariffs)
- 二国間または多国間で、「あなたが関税を上げるなら、こちらも同様に上げる」という対抗措置。
- 通常、自由貿易に対抗して保護主義的政策の一環として用いられます。
● 報復関税(Retaliatory Tariffs)
- 一方的な関税引き上げや貿易障壁に対して、対抗措置として課される関税。
- WTO協定(世界貿易機関)においても、一定のルールのもと認められています。
【2】報復関税が戦争に発展した事例
関税がきっかけとなり、経済対立→外交関係の悪化→戦争という流れに至った歴史的な例を紹介します。
【A】米英間の1812年戦争(War of 1812)
● 背景:
- アメリカ独立後、英仏のナポレオン戦争の影響で、アメリカの中立貿易が妨害される。
- 英国はアメリカ船を臨検・拿捕し、アメリカ人水夫を強制的に徴用(印象制度)。
- 英国はアメリカからの輸出品(綿花や農産物)に高関税を課していた。
● 報復措置:
- アメリカは1807年「禁輸法」を制定し、英仏両国への輸出を停止。
- 1811年「マコン法第2号」で英国にのみ制裁(事実上の報復関税)を強化。
● 結果:
- 英米の貿易戦争が激化。
- アメリカが英国に宣戦布告し、「1812年戦争」へと発展。
【B】1930年代 スムート=ホーリー関税法 → 第二次世界大戦への遠因
● スムート=ホーリー関税法(Smoot–Hawley Tariff Act, 1930)
- 世界恐慌の中で、アメリカは国内産業保護のために2万品目以上に関税引き上げ。
- 他国(カナダ、イギリス、フランス、ドイツなど)も報復関税を次々導入。
● 結果:
- 世界貿易が30〜60%縮小。
- 世界的な経済ブロック化(英連邦 vs 米国など)が進行。
- ドイツや日本などの「ブロック外国家」は孤立し、経済的な行き詰まりが軍事侵攻・戦争へ向かう要因となった。
【3】現代における報復関税の例(戦争には至らずも、緊張を高めた)
● 米中貿易戦争(2018〜)
- アメリカが中国製品に関税(最大25%)を課す。
- 中国もアメリカ農産物・工業製品に報復関税。
- WTOの調停や交渉を経ても、経済的な対立は継続中。
【まとめ】
項目 | 内容 |
相互関税とは | 相手国の関税に報復して、同等の関税を課す制度 |
法的根拠 | WTOの報復措置条項、国内法(例:米通商法301条) |
戦争への発展例 | 1812年米英戦争、1930年代スムート=ホーリー法による経済ブロック |
現代の例 | 米中貿易戦争など、戦争には至らないが深刻な経済的対立を招く |
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